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いけない、寝てしまっていた、と飛雄馬は畳の上で寝転んだまま高い天井を見上げる。
誰がかけてくれたのか、ありがたいことに腹の上にはタオルケットが乗せられていた。
しばし畳の上で仰向けのまま瞬きを繰り返してから、飛雄馬は寝返りを打つと、右側臥位の格好で閉まったままの襖を見つめる。心地良い。このまま二度寝と洒落込みたいくらいだが、そろそろ起きねば、と体を起こし、立ち上がる。
居室兼寝室にと充てがわれた親友の屋敷の一室。
姉と共に住んでいたマンションの部屋は既に引き払われ、幼少期を過ごした長屋も今はなく、いわゆる住所不定であった飛雄馬は親友・伴宙太の屋敷に身を寄せ、ここから伴重工業のグラウンドに出向いている。
今日は伴が給金を弾み、呼び寄せてくれた二軍選手らも他球団の選手らと試合が組まれているとのことで、午前中は飛雄馬もビッグ・ビル・サンダーと共にトレーニングに励んだが、午後からは久しぶりに休暇を取っていた。
伴はこの日、サンダーと共に東京見物に出ており、屋敷にいるのはお手伝いさんを除けば、飛雄馬ひとりである。
飛雄馬がおばさんと呼ぶ顔馴染みのお手伝いさんが作ってくれた昼食を食べたのち、腹が落ち着いてから庭でトレーニングをしよう、と考え、ごろりと畳の上に横になったが最後、どうやら日頃の疲れも手伝い眠ってしまっていたらしかった。
昼寝をしたのはどれくらいぶりだろうか。
いや、行方をくらませてからは腕の腫れや痛みが治まるまでしばらく、寝てばかりいたような気もする。
町医者に嘘を吐いて処方してもらった鎮痛剤で、痛みをごまかす日々を送る中で薬に耐性ができ、徐々に処方通りの服用では効かなくなってしまい仕舞いにはアルコールに手を出した。
大量の酒を飲み、酔っては管を巻く父親が嫌で嫌で当時は仕方なかったが、こうして振り返ると彼もまた、戦争で痛めたと言っていた肩の痛みをごまかすために、酒に溺れてしまっていたのかもしれなかった。
医者にろくに治療してもらうこともせず、放置していた左腕は最早使い物にならず、今では遠投することさえできなくなってしまっている。
なんて、思い出に浸っている場合ではないのだが。
飛雄馬は苦笑すると、廊下へと繋がる襖をすらりと開け放ち、部屋の外へと出た。
そこから、玄関へと向かう最中、雨戸の開け放たれた縁側を歩いているとちょうどおばさんと呼ぶ彼女が洗濯物を取り込んでいるのと出くわし、飛雄馬は生来の人の良さから、手伝いましょうか、と声をかけた。
「ひえっ!ああ、星さん。驚いた……てっきり眠っていなさるものとばかり…ごめんなさいね。そして大変ありがたいのですけれど、私も旦那様やぼっちゃまに雇われている身ですから、お手伝いしていただくわけにはいかないのです」
「タオルケットを、かけてくださったのはおばさんでしょう。そのお礼ですよ」
「まあ、そんなお気になさらずに。星さんやサンダーさんがきてくださったおかげで、私も毎日楽しいですから」
「…………」
おばさんは、変わらないな、と飛雄馬は小柄な白髪頭を綺麗に結い上げた彼女を見つめ、頬を緩ませた。
伴もおれも、ずいぶん年を取った気がするが、おばさんは出会った頃のまま変わらず接してくれる。
「星さんは今からお出かけですか?」
「いえ、少し体を動かそうかと」
「それは、いけません。星さん、私坊っちゃんからあなたをゆっくり休ませるよう仰せつかっていますから」
「え?」
「トレーニングは今日はお休みになさいませ」
「し、しかし……」
「私が叱られてしまいます」
そう言われてしまっては返す言葉がなく、飛雄馬はその場で立ち止まる。
「………」
「部屋でゆっくりなさってください、星さん」


あ〜〜ス●ベなのが読みたい!!!!!!
週末書きたいです…星受けR指定本どなたか出してください言い値で買い取らせていただきます…
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