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更新に日にちが空いてしまいすみません(´;ω;`)
一難去ってまた一難の繰り返しでここ10日ほどは趣味の時間がほとんど取れませんで…
連日ご訪問、ならびに拍手を押してくださりありがとうございます。
今月過ぎたら少しは落ち着くはず…星くん受けのR指定モノが読みたい…読みたい…

話は変わりますが、
読●新聞で川崎先生へのインタビュー連載が始まったようで大変嬉しく思います(*´꒳`*)
1回目は主に星について触れられていて、忙しく荒んだ心に染み渡りました…先生がお元気でいてくださることが何よりです。

そして以下、ボツネタです。
このあと、花形さんが帰宅し、寝所に忍び込んで…のつもりでした。
今週金曜にDVD出るのが楽しみです( ´•̥̥̥ω•̥̥̥`)



「お腹が空いてるの?」
ふいに、頭上から声をかけられ、飛雄馬はハッと顔を上げる。シャッターの下りた商店の軒下。
雨続きで日雇いの仕事にもありつけず、腹を満たすことも雨風を凌ぐこともできずに辿り着いた都内近郊。
野良犬に混じり、閉店となった飲食店の残飯漁りでもしようか、そう考えていた矢先の出来事。
「…………」
落ち着いた、それでいて値の張りそうな着物に身を包んだ女性がひとり、傘を差し、飛雄馬の目の前には立っている。ねえちゃん、と危うく口走りそうになって、飛雄馬はずり落ちかけたサングラスを指で定位置に戻すと、構わないでくれ、と低い声で囁く。
「ごめんなさい。突然声をかけたりして。あなた、私の弟に少し似ていて、なんだか懐かしくなって……」
「…………」
長い豊かな黒髪をひとつに結い上げた女性が上品に笑って、飛雄馬は、ああ、間違いない、ねえちゃんだ──と彼女の笑顔と仕草を目の当たりにし、確信する。しかし、こちらの身元を明かすわけにもいかず、飛雄馬は雨に濡れ、薄汚れた出で立ちでただただ押し黙り、目の前の彼女が一刻も早く立ち去ってくれることだけを願う。
「あの、よかったら、うちにいらっしゃらない?変な勧誘とかそういうんじゃないの。あなたが雨に濡れてあんまり寂しそうだから」
うちに?うちとは、花形さんの屋敷か?
なぜ見ず知らずの、得体の知れない男を屋敷に招こうとする?不用心すぎないか。
着いていったところで、夫である花形さんに門前払いを食らうに決まっているだろうに。
でも、ねえちゃんのそういう優しさに、おれはずっと救われてきたのも事実。
「招こうとしているうちとやらにはあんたひとりか?どういう了見か知らんが、不用心すぎやしないか」
「ふふ、私にはあなたがそんな乱暴なことをする人には見えないわ。タクシーを待たせてるの。少し待っててちょうだい」
「…………」
言うなり、草履や足袋が濡れるのも構わず、停めているというタクシーまで走り寄ると、中に乗り込み、こちらに後退する形で距離を詰めてきた彼女に促される形で飛雄馬は後部座席の隣に体を預けた。
これは後にわかったことだが──雨で濡れ鼠となった自分をタクシーに乗せるために、ねえちゃんは運転手に高額の礼金を払ったという話だ──。
飛雄馬は雨に濡れ、ほとんど意味を成さないサングラスを外すこともできないまま、隣に座る彼女が行き着く先まで、ぼんやりと車窓の外を眺めていた。
そうしてしばらくタクシーに揺られ、辿り着いた先、花形満の表札がかけられた豪邸に招かれ、白い清潔なタオルと共に浴室へと押し込まれる。
こうも易易と屋敷に足を踏み入れることができたのも、花形さんが出張で留守であるがゆえで、先程ねえちゃんがおれに寂しそうだったから、と声をかけてきたのも自分がそうであったからだろう。
夫婦二人で住むにはあまりに広大で、どことなく冷たい印象を受ける。お手伝いさんもいて、高価そうな骨董品が至るところに飾られた屋敷は、一見賑やかそうで明るくはあるのだが、どことなく寂しいのだ。
見たところ子供もまだいないねえちゃんは、ここでひとり、旦那の帰りを待つのだと思うと、胸が詰まる。
飛雄馬はそんなことを考えながら脱衣所で濡れた服を脱ぐと、浴室にて一通り体と頭を洗ってから湯船に身を沈めた。伴い、風呂の湯の熱がじんわりと体の芯へと染み渡っていく。
しかし、勝手に他人を招き入れて、ねえちゃんは花形さんに怒られはしないだろうか。
促されるままに風呂に入ってしまったが、早いところ出ていかなければねえちゃんに迷惑がかかる。
飛雄馬は浴槽から出て、脱衣所に繋がる戸を開ける。
足を悠々と伸ばすことのできる広い浴槽と広々とした洗い場はどうにも落ち着かず──招かれた屋敷に対しこんな感情を抱くのもどうかと思うが──飛雄馬は先程渡されたタオルで全身の水気を取ると、いつの間にか脱衣所に用意してあった新品のランニングシャツと下着を身に着けた。脱いだ服の一式は近くには見当たらず、ねえちゃんのことだ、洗濯してくれているのだろう、と彼女のしたことを咎めようともせず、飛雄馬は綺麗に折りたたまれていたサングラスをかけると、シャツと下着姿のままで脱衣所を出る。
すると、廊下で待っていたらしき彼女に出会い、これ、夫に買ったのだけれど、あの人の趣味に合わないみたいだからとこれまた新品のポロシャツとスラックスを手渡され、飛雄馬は一瞬、固まった。
「ご、ごめんなさい。勝手なことばかり……下着は用意したのだけれど、着替えにまで気が回らなくて……濡れたものは今洗濯してしまっているのよ」
「…………」
ねえちゃん、おれにはそんなに気を遣わなくていいんだよ、の言葉を飲み込み、飛雄馬はお借りします、とだけ言うと、手渡された上着とスラックスを身に纏う。少々、大きくはあるが贅沢を言える身ではないし、花形さんの私物を借りたところで結果は同じであろう。
「そういえば、お名前、うかがってなかったわね」
「……っ、」
名前、と飛雄馬は固まり、何と名乗ろうかとしばし思案してから、「名前は勘弁してください」とだけ返した。
「そうよね、ごめんなさい。さっきから私ときたら……お腹空いてるでしょう?夕飯、一緒に食べない?」
「し、しかし、いつまでもいるわけには」
「あなたが心配することじゃないわ。ふふふっ、そうやって取り乱したりするのを見てると、本当に弟にそっくり……呼んだのは私だから、あなたが私や主人に気を遣うことはないのよ」
「…………」
楽しそうに目を細め、こちらにどうぞ、と先を行く彼女の──姉の後ろ姿を目で追いながら飛雄馬は唇を引き結ぶ。その後を追って、おれは正真正銘弟の飛雄馬だよと打ち明けてしまったら、ねえちゃんは怒るだろうか。何も言わず、行方をくらませた自分を昔のように受け入れてほしいなどとは微塵も思ってはいないが、今までどこで何をしていたのと問われ、正直に話す勇気は今のおれにはない。
姉の後を飛雄馬は追い、そのまま案内されたダイニングテーブル備え付けの椅子へと腰を下ろす。
すると、目の前には魚の煮付けと具沢山の味噌汁、それに香の物と炊きたてのご飯から次々と並べられていく。昨日の残りだけれど冷蔵庫から牛蒡と人参に蒟蒻の加えられたきんぴらが出てきて、飛雄馬は驚きのあまり、目を丸くする。
「お魚が安かったから。出張の連絡が来たのも作り始めてからで……お口に合うかわからないけれど」
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きりう
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